静止画ダウンロード違法化(著作権法改正案)とパブコメの書き方について

blogなんて書くのは5年ぶりです。役目を果たしたので全部消してしまいましたが、当時は児童ポルノ禁止法について政治家の方への陳情書を書いたりしていました。

web.archive.org


さて、最近は基本的に政治関連の事柄についてあまり触れないようにしていたのですが、文化庁が検討している著作権法の改正案(静止画ダウンロード違法化)がとてもじゃないけど納得出来るようなものではないので、簡単な解説とパブリックコメントの書き方送り方指南を作成してみました。

 

【何があったのか】
文化庁海賊版静止画のDL違法化を狙って著作権法尾の改正案を国会に提出する予定ですが、実際には改正案の中身は「普通のソシャゲでスクショを取るだけでも違法になる」といった内容のものでした


文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめに関する意見募集の実施について

search.e-gov.go.jp

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ」の「第2章 ダウンロード37違法化の対象範囲の見直し」が著作権法改正案の概要です。


【これの何が問題点か】
静止画DL違法化の何がまずいのか簡単に箇条書きすると次のようになります。

 

1.ネット上で流れてきたソシャゲのスクショ画像を保存するだけでも違法になります
文化庁海賊版対策としていますが、実際の改正案の方針はDL違法化の対象は海賊版に限定されていません。
現在は漫画や新聞記事の切り抜きを撮影したもののような静止画をダウンロードすることは合法ですが(著作権法第30条で権利が保障された私的利用であるため)、今回の文化庁案がそのまま法律になるとたとえばTwitterでどこかから流れて来たような漫画や新聞の切り抜きの画像を右クリックで保存する事が違法になるだけでなく、同じくTwitterなどで誰かがアップロードしたソシャゲのスクショを保存するような行為も違法になります。
文章や論文などもDL違法化の対象なので基本的にネット上にある物の大半が対象になりそうです。漫画などとは関係なく、調べ物をしていて文章などを保存しても違法になります。

ここで専門家の見解を引用します。

 

「しかしこれが仮に法制化された場合に、厳格に適用してしまえば、これまで通り自由に好きなキャラクターの画像をインターネットで閲覧したり、スクラップがわりに保存したりといったような行動が取れなくなる。」
(田上 嘉一弁護士 東洋経済オンラインの記事より)
https://toyokeizai.net/articles/-/254738?page=4

 

2.これだけ厳しい法律でも、海賊版サイトを取り締まれません
今回の対象は静止画です。海賊版サイトがストリーミング式だったら完全に対象外なので規制した意味がありません。何の意味もない…。

 

3.静止画のダウンロードを違法化したからと言って被害が減りません。
⇒なぜならば動画のダウンロード違法化で被害が減りませんでした
海賊版サイトを一刻も早く潰すのが一番根本的な対策であり、他国が違法化しているからといって何も考えずに違法化してよい訳ではないのです。


4.二次創作もDL違法化の対象になります。
実際にはDL違法化が海賊版に限定されていないので、漫画やアニメなどの二次創作も厳密には著作権侵害です。なのでDL違法化の対象になります。
ツイッターやPixiv等のネット上の二次創作が萎縮する恐れがあります。
漫画家さんも他人事ではありません(!)

 

(※微罪別件逮捕の温床とかそういう話はここではややこしくなるので省略します)

 

海賊版サイトによる莫大な被害を目の当たりにして文化庁海賊版サイト壊滅策を色々と考えているそうですがなかなか結果が出ず、焦って「ネットを使うと犯罪になる」と言っているのに等しいのではないかとさえ思えるような法律を国会に出そうとしているようです。

 


【こんな時どうすればいいか?】

あまりに馬鹿馬鹿しい法律改正案ですが、馬鹿馬鹿しいと呆れているだけではどうにもなりません。このような時はパブリックコメントを投稿して文化庁へ意見できます。
意見したくてもそういうのはなかなかうまく書けそうにないな、という場合はとりあえずTwitterでこの呼びかけをRTするとかして情報を広めて下さい。

 

パブリックコメント締め切りは来月1月6日までなので、まだ間に合いますがあまり時間がありません。

 

パブリックコメントパブコメ)とは何か?】

パブリックコメントとは、国の行政機関が政令や省令などの案をあらかじめ公表し、広く国民の皆様から意見や情報を募集する手続です。応募いただきました意見を、国の行政機関が反映することにより、行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に役立てます。」
電子政府の総合窓口e-Gov イーガブより引用。
http://www.e-gov.go.jp/help/public_comment/

 

パブコメは行政手続法によって定められた制度です。
行政が法律や規則を定める際に、事前に国民の意見を聴取してより良い行政を目指す事を目的としています。
意見が提出された案件については、内容について行政機関の中で再確認・再検討する事が義務付けられています。


パブリックコメントの投稿方法】
今回の案件は専用ウェブサイト「e-Gov」(の指示に従ってメールで送信)、FAX、郵便(郵便は2019年1月6日必着)の3つの方法で投稿可能です。

search.e-gov.go.jp

ここでは一番便利で手っ取り早い方法、専用ウェブサイト「e-Gov」の指示に従って、メールで送信するやり方を案内します。

電子政府の総合窓口(e-Gov)に掲載されている「中間まとめ御意見送付用テンプレート」に4.(1)の記載事項を記入の上、以下のメールアドレスに送付してください。


chosaku@mext.go.jp


・判別のため、件名は【中間まとめへの意見】として下さい。
・複数の御意見を御提出いただく場合には、取りまとめの都合上、4.(2)※書きの1区分ごとに1つのテンプレートを作成し、提出してください(例:A、B、Cについて御意見がある場合は、3つのテンプレートを作成し、提出してください。なお、3つのテンプレートを一つのメールに添付していただいても結構です。)。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000180846
「御提出いただいた御意見の内容や団体名を除き、氏名、連絡先電話番号、連絡先メールアドレスについては公表いたしません。」と明記してありますので安心してください。

 
【どのように書けばいいか】
文化庁の『文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ』では「ユーザー側の萎縮効果への懸念について、ヒアリングや追加の照会においても確たる事例は出てこなかった……著作物全般を対象にダウンロード違法化を行うべき」とまとめられています。
つまりユーザー側がパブコメで、静止画DL違法化の問題点やデメリット、萎縮効果の具体的な事例を書いて、反対の意思を示せばそれだけでOKです

難しい決まりはありません。
パブコメはほとんど規定がなく(文字数に制限があることくらいです)、かなり自由に書くことが出来ますが、何回も同じものを一人で送り続けたり、読み手がとても嫌な気持ちになるような表現を使ったりするのはやめましょう。

ただし、まずパブコメを書く前に最低限、『文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ』と『【参考資料】ダウンロード違法化に関する留意事項』は読みましょう。 特に『【参考資料】ダウンロード違法化に関する留意事項』では、文化庁は予想される質問に対して事前に回答をしています(閲覧やキャッシュは違法にならない等)。

あまり長い文面や専門用語を使った書類などが苦手という人は下記まとめを参照して下さい。
中間まとめと留意事項の要約が載っています。

 

文化庁中間報告から読む静止画・テキストのDL違法化の問題点と構成要件

togetter.com

 

なお下記サイトにはDL違法化の問題点が色々書いてあるので、ぜひ読んで、パブコメを書く際の参考にして下さい。

 

静止画ダウンロード違法化の理由は海賊版対策ではなく「日本国民にとって道徳的に駄目」ということ

togetter.com

山田太郎さんが懸念する表現の自由侵害の危機・静止画DL違法化とコスプレの著作権違反化

togetter.com

弁護士山口貴士大いに語る
静止画や小説等ダウンロードの違法化/処罰化に強く反対する

yama-ben.cocolog-nifty.com

山田奨治氏(国際日本文化研究センター教授)のDL違法化の問題点指摘
包括的ダウンロード刑事罰化がはじまろうとしている

www.yamadashoji.net


包括的ダウンロード刑事罰化(1):「主観要件」の危うさ
ht

www.yamadashoji.net

 


包括的ダウンロード刑事罰化(2):ユーザーの懸念は出てこなかった?

www.yamadashoji.net


包括的ダウンロード刑事罰化(3):それでも絵師修業はできますか?

www.yamadashoji.net


包括的ダウンロード刑事罰化(4):調査・研究・批評が後退する

www.yamadashoji.net


包括的ダウンロード刑事罰化(5):何が決定的に欠けているのか

www.yamadashoji.net


第401回:ダウンロード違法化・犯罪化の対象範囲の拡大とリーチサイト規制(リンク規制)の法制化を含む文化庁著作権分科会・法制・基本問題小委員会中間まとめに関する意見募集の開始(2019年1月6日〆切)

fr-toen.cocolog-nifty.com


以上の問題点を踏まえて、とりあえず私はこのように書きました。
適宜参考としていただければと思います。

(ここからです)
①意見提出対象の区分:B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直し
②賛成/反対:反対

③御意見
著作権法改正に関するわたし個人としての意見を述べさせていただきます。
最近、この1、2年の話ですが、漫画村のような違法海賊版サイトのせいで本が売れなくなったというツイートを漫画家の方達がしているのをよく目にします。新聞やテレビでも報道している通り、その被害は甚大なものだと思います。ただでさえ漫画が売れない時代と言われているのに余計に売れなくなって漫画家さんが余計に被害にあうのは困ります(私はそのような海賊版サイトは絶対に使わないことにしています)。

ですので漫画村のような海賊版違法サイトを早く全て壊滅させて欲しいのですが、今回の静止画ダウンロード違法化は、スクショでさえ犯罪になるという非常に厳しい規制であるにも関わらず、ストリーミングはダウンロードに該当しない為に海賊版サイトを全く取り締まれず、何の効果もない事が解っています。
これはどういうことでしょうか?

海賊版サイトや海賊版とは関係のないソシャゲのスクショを撮っただけのような私的利用でも違法=犯罪。そんなことが犯罪になる。でも海賊版サイトの取り締まりには意味がなくて本当に悪事を働いている連中は野放し…そんな法律を作る意味が解りません。
論理が飛躍しすぎており、本改正案がインターネットの利便性を著しく損ね、ネットの利用者が萎縮してしまう結果になるのは明白です。

萎縮の一例を挙げます。
今ネット上には、漫画やアニメのキャラの絵を書いたり、それらを題材にした小説を書く二次創作同人活動が盛んです。その活動の場はブログやツイッターなどだけでなく、Pixivやニコニコ静画などネット上で幅広く行われています。
しかし漫画やアニメの二次創作は厳密に言えば有償著作物の著作権違反です。つまりDL違法化の対象となります。
もし二次創作がDL違法化されると、こうした場での活動が著しく萎縮します。
参議院2015年8月10日 予算委員会、ならびに2016年4月8日衆議院TPP特別委員会では、TPP交渉や著作権改正に際し、安倍総理が二次創作同人活動が萎縮しないよう注意する旨の答弁をしてます。
安倍政権はクールジャパン戦略において二次創作活動を重視しています。また文化庁文化審議会著作権分科会小委員会が2015年11月4日において、日本書籍出版協会は二次創作同人活動を「新たな文化を産み出すインセンティブ」と位置づけ、出版業界も「新人作家のゆりかご」であるとし、萎縮させないよう求めています。今回の著作権法改正案はクールジャパン戦略を真っ向から否定するものでありますが、その意味を解っているのでしょうか。

 

海賊版サイトが莫大な被害を出している現状をなんとかしようと文化庁も頑張っているのは判りますが、インターネットやITの基本的な仕組みを無視して国民を傷つけるだけの法律を作るのはやめて下さい。
TPPでの著作権非親告罪化も海賊版対策で導入されました。
しかし二次創作活動を萎縮させないよう、「権利者の利益を不当に害する場合に限定する」という条件が設けられています。
ところが今回のDL違法化にはその様な限定が一切ありません。

インターネットを使う国民全員にとって負の効果しかなく、実効が期待できない法律は最初から作るべきではなく、有害無益であると思います。
それよりも実際に効果のある海賊版サイト対策を強く求めます。
このような改正案を国会に出そうとする事自体がおかしいと考えます。
(ここまでです。だいたい1400字でした)

 

 

以上、参考になればと思います。皆様もご協力いただければ幸いです。

文責:綾波書店

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また、作成協力は以下のお二人です。有難うございます。

高村武義 #WalkAway氏 (@tk_takamura)

masao‏氏 (@namiyome)